能楽とは能と狂言を併せていう用語で、明治以後、一般に用いられるようなりました。能楽は日本の代表的な古典的楽劇の一つです。登場人物の所作は細かく様式化され、言葉や節回しは室町時代の様式を残しています。

能は、「幽玄美」が描かれた「謡と舞」を中心に展開する物語です。物語の題材は、平家物語、源氏物語、伊勢物語や土地に伝わる伝説などです。実在した人物が幽霊となって現れ、生きていた頃の恋物語や戦物語を回想するなど、「神・愛・情念」の精神世界を描いています。このような幽玄の世界を描くため、台詞はすべて口語と離れた文章形式がとられています。演者（主人公＝シテ）は、現実離れした登場人物を演ずるため、面（おもて＝能面）をつけます。

狂言は、喜怒哀楽や人間ならではのおかしさを、庶民的な観点から喜劇的に描く日本最古の会話劇です。登場人物は、その辺に大名・主人・婿・舅・女や動物などです。写実性を求める狂言は、室町時代の口語で会話されます。能のなかに登場する狂言は間（アイ）狂言、それだけで成立する狂言は本狂言といいます。

能と狂言は異なった性格を持ちながらも、表と裏、陰と陽の関係にあり、能楽を支えあっています。能と狂言が交互に演じられても違和感が感じられないのは、謡と舞という共通する基本があるからです。